海老原嗣生

中国経済の成長鈍化は、経済史的に大きな出来事だと気づくべきだ。14億人もの国民が毎年のように給与アップ・生活向上し、消費や貯蓄が増えることで、世界全体が潤った。おりしも、スマートフォンなどという生活史を変える大発明がなされ、それが普及する時代に重なった。スマート決済、eコマースなど生活を変えたツールもそこを起点にしている。こうした社会の大激変かつ大充実期が2010年代だったのだ。もうスマホ並みのエポックはしばらく生まれない。そして中国並みの経済的スーパースターも、インドの成熟を待つしかないが、それはまだまだ先のことだ。 50代後半になった筆者は、日本の80年代バブル期をよく覚えている。あのころ、私たちは「それが普通のこと」と思い、夢のようなことを当たり前に語っていた。2010年代という「世界史的バブル」のただ中にいた世界民は、今、そろそろ「夢のようなこと」を当たり前に思う過ちに、気づくのではないか。 たとえば、ちょっとしたアイデアとITを結び付ければ、出資が募れてすぐにビジネスオーナーになれた。Wワークだ、会社にとらわれない生き方だと、枠を気にせず自由も謳歌できた。ユーチューバーが小学生の人気の職業となり、個性的な芸で億を稼ぐ人たちも少なくない。そんな時代を過ごした若者たちは、キャリアの原点に「夢」や「自由」を置くのではないか。代わって2020年代が、まるでバブル崩壊後の日本のように、世界中に「停滞」が蔓延する可能性は高い。この隣り合わせる2010世代と2020世代は、大正と戦前、バブル世代と氷河期世代と同様に、対照的で相いれない人たちとなっていくのではないか。